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一次運動野は同側の手の運動開始に関与するのか

執筆者の写真: Nagashima KazuhiroNagashima Kazuhiro

更新日:2月25日


「大脳皮質一次運動野が同じ側の手の運動開始に関与することを発見」というプレスリリースを読んだのです。

下の画像にリンクを張っておきますね。

ちょっと「あれ?」っと思ったのです。

まぁ、プレスリリースですし、研究の全てが書いてあるわけではないのでなんとも言いがたいところは在るのですけれど・・・

何に「あれ?」っとなっているかというとですね。

この実験の結果が「一次運動野が同側の手の運動開始にも重要な役割を果たしている。」とされているところで、一次運動野の出力があたかも同側の手のα運動ニューロンに直接つながっていて運動開始に関わっているニュアンスで書いてあるところなのです。


一次運動野で同側に降りる繊維は前皮質脊髄路と言われている経路だと思うのですが、前皮質脊髄路は、主に体幹筋と近位筋を制御するとされていたと思うのです。

外側皮質脊髄路に於いても、延髄で交差するものは75%であって、残り25%は同側に降りるわけですが、外側皮質脊髄路の25%の同側に降りる繊維にせよ、前皮質脊髄路にせよ、

それが直接手のα運動ニューロンに接続されている細胞であるとすれば実験で示された同側の動きで興奮を起こしている一次運動野細胞の細胞が同側の手の運動開始に対して因果関係に近い関連性があるという事になるのかも知れませんけれど・・・。

では、どの様な実験であったのかという事をみてみます。


サルでの実験です。

図がどの程度実験の様子を現しているのかという点もありますが、本文と図を見るとモニターの左右に光刺激を提示し、提示した側のボタンを押すという実験をおこない、一次運動野の神経細胞の活動を調べたと言うことらしいですね。

たぶん、この神経細胞の活動を調べる機器の精度が上がってきたのでこう言った実験をおこなわれたと思います。ここの部分については凄いと思います。


しかし、運動の開始は、筋の緊張はいったん出力を弱める必要があります。その後に筋出力を上げて、運動終了時に筋出力を再び弱くするといった調節は基底核が調整していることが知られています。

運動前野の出力を基底核が受けて、ハイパー直接路がターゲットの筋〜この実験では手関節の屈筋群でしょうか?〜の抑制を言ったん加えることになります。これが運動の開始ですね。その後、直接路がターゲットとなる筋の出力を大きくし、手関節が掌屈してボタンを押すことになります。最後に、間接路がターゲットの筋の抑制をするので掌屈を止める〜ボタンを押すのを止めることになると言った制御がおこなわれるわけです。

基底核が運動開始に関わっているからこそ、パーキンソン病などの基底核の障害で、運動開始困難という病態が生じるのです。


つまり、一次運動野のみの活動のみを取り上げて、運動開始に関わるという事は出来ないのでは無いかと思うのです。

ですのでこの実験が示すことは、

「一次運動野の神経細胞が同側の運動開始と相関関係にあるけれど因果関係と判断することは出来ない」

といったところまでかと思うのですね。ですから、プレスリリースにある様に、「大脳皮質一次運動野が同じ側の手の運動開始に関与する」とまでは言えないのでは無いかなぁと思います。

これを言うためには、運動前野の活動も確認するか、もしくは運動前野の活動を抑えて一次運動野の神経細胞を興奮させてみて、同側の手が動くか否かを確認しなければならないのでは無いかと・・・イヤそれでも不十分ですね。


運動を起こす際にAPAsが有ることが知られていますね。

皮質脊髄路とは別に、皮質網様体脊髄路が有りますよね。

皮質脊髄路より早い情報伝達の経路です。

皮質橋網様体脊髄路は主に同側性支配ですが、橋網様体脊髄路に投射するのは運動前野です。この実験では、一次運動野の神経細胞の活動を調べておられるので、橋網様体脊髄路の影響では無さそうですね。


そして思い付くのが、延髄網様体脊髄路です。

赤い○の所です。

Motor Cortex(Area4)と書いてありますね。一次運動野です。この出力が、下方に向かって降りています。これが皮質脊髄路。反対側の手に降りてますね。

で、途中で左に矢印が分岐しています。これが延髄に入力されて、皮質延髄網様体脊髄路として両側性に運動支配をおこなうことになります。これはα運動ニューロンに接続すると言うより、主にγ運動ニューロンへ接続することで、筋緊張を調節する経路です。

両側性ですから、同側にも降りるわけです。

ですから、この実験で見ている一次運動野の神経細胞は、皮質脊髄路に投射されているものでは無くて、実は延髄網様体に投射されて皮質延髄網様体脊髄路として運動開始に関わっている細胞であって、皮質脊髄路として同側の手の運動開始に関わっているのでは無い可能性が在るのでは無いかと思うのです。

というか、個人的な印象としては、むしろ、反応時間が短いものというのは、延髄網様体脊髄路の活動を拾っている可能性の方が高いと感じます。


まぁ、大きな意味では一次運動野の神経細胞の活動が同側の手の運動に関わっているということは言えますけれど。


さらにもう一つ。反応時間が長いものについて。

図説中枢神経系第2版 p240に、

「運動前野(6野 8野)、運動野(4野)および体性感覚野(3野 1野 2野)は反対側の線条体に投射線維を送るとの報告がある。」

と記載されています。

もしかすると、この実験で拾っているのは、一次運動野(4野)から反対の線条体(基底核)に投射された情報が、反対側の一次運動野の出力に基底核ループを介してバイアスをかけて運動を起こしている可能性も有ります。


まぁ、関わっていることは関わっているので良いと言えば良いのですけれど。

そういえば、最近、一次運動野の皮質について、エフェクター領域とエフェクター間領域が有るとする研究がありましたね

まだ充分接続が解っていない様ではありますけれど。

以前ちょっとブログで取り上げたことがあります。




リハビリテーションに関して言えば、麻痺側の活動を促す為、損傷側の脳の活動を促通するには半球間抑制と言った現象への配慮もおこなう必要があるので、非損傷側脳の興奮性を促すと言った流れは考えにくいですよね。

非損傷側の過剰な興奮を抑えた状況で、両側性の動きを入れることで非損傷側の運動前野・運動野・感覚野の情報を反対側の基底核ループの働きに変換させて麻痺側上肢の活動を促す結果になると考えた方が自然です。

非損傷囊の過剰な活動を抑えるためには、様々な工夫が必要であるのは言うまでも無いですけれど。




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