2006年ぐらいからニューロリハビリテーションの中でも、半球間抑制というのが言われてきています。
健常な状態であれば左右の大脳半球は左右がそれぞれ反対側を抑制して活動を調整しているというやつです。
運動で言えば、脳(外側皮質脊髄路)は左脳運動野が右上下肢を、右脳運動野が左上下肢を支配しています。いつもは、左右の脳がお互いを抑制して協調し合いながら適切な出力調整をしているわけです。
ここで、右の脳が損傷したとします。単純に言えば左の上下肢の麻痺が出るわけですが、右の脳の損傷に伴って、左の脳に対する抑制が減少すると言うことになります。
結果、左脳は脱抑制で興奮してしまい、過活動を右上下肢に起こすわけです。
これだけならまだよいのですが(いやよくはありませんけど・・・)、過活動状態の左脳は強く右の脳を抑制してしまいます。
ただでも右脳は損傷しているのに、さらに抑制までされてしまって脳の活動を抑えられてしまうわけです。泣きっ面に蜂ですね。
結果、損傷以上に左上下肢は動きを出しにくくなって、回復もしにくくなるというわけですね。
で、経頭蓋磁気刺激で非損傷脳を刺激して抑制することで麻痺を改善させようとする治療が試みられたり、非麻痺側を固定して麻痺側を使用させて回復させるCI療法が開発されたりしたわけです。CIについては、姿勢制御と上下肢のコントロールの協調が脳損傷では障害を受けるのですが、姿勢制御の観点が乏しくなり安い傾向にあるような気がして個人的にはあまり好きではないです。(あくまで個人的な印象です、話がそれました)
ちなみにボバースコンセプトにおいては、非麻痺側も脳損傷の影響を受けていると考えて以前から過剰な使用など避けるようにアプローチを展開しています。
さて、この話が指し示す結論は何かと言えば、動く方の手足で頑張っていろいろすればするほど麻痺側の回復の可能性が減少していくという関連性にあると言うことです。
麻痺は回復はするけれど、完全に以前のようになるわけではないのですが、それでもできるだけ回復した方がいいですよね。
この半球間抑制、どのようなメカニズムで起こっているのでしょう。また少しずつ調べようとは思っているのですが、ちょっとメカニズムを理解するのは無理かもしれないですね。ただ、一ついえるのは、脳循環動態の変化が半球間抑制と同様に起こっている可能性が高くて、それも損傷脳の回復や神経伝達を阻害していると考えられるのです。
心臓から送られた血液は前後左右に分けられて脳に届けられます。後方循環系は椎骨動脈から脳底動脈~後大脳動脈となり脳幹や小脳、後頭葉などに血液を送ります。前方循環は左右の内頸動脈から前大脳動脈~中大脳動脈となり、頭頂葉や前頭葉、側頭葉などの循環を保ちます。ところで、血管は脳が情報伝達した際の伝達物質によって、おそらくグリア細胞を経由して血管運動を変化させます。だから、働かせている脳の部位の血流が増して働いて伝達物質を送ったり受けたりする事で消費される酸素とエネルギーを保証するわけです。
使っている脳の循環は増す、つまり、血管はおそらく広がりつつ血管運動も活発になるのですね。
たとえば、右の脳損傷が起きて左の上下肢麻痺が起きました。で、仕方なく一生懸命右上下肢を使います。つまり左脳は過活動状態になるとします。左脳は血液がほしくなるので、一生懸命血管を広げて血流をあげようとするわけです。
心臓は一つです。
大動脈弓から左右の脳に届く血管に分岐するのですが、左の血管は太く広がってたくさんの血液が運べる状態、そして、右は狭いまま。心臓というポンプが働いたら太くて通りやすい方に血液は流れますよね。心臓の拍出量は幅はあれど一定ですから、右脳への血液量は相対的に減少することになるはずです。
大変ですよね。これから回復しようとしている損傷側の脳神経細胞や軸索、グリア細胞、血管、それらの組織は回復をするためにいつもより多くのエネルギーや酸素を必用としているはずなのです。なのに血液は少なく必用な物を運んで来にくくなる。
さて、半球間抑制、この作用は急性期においてはそんなに起きていないとされています。回復期やそれ以降に強い半球間抑制が起きてくるというデータがあるようです。
このデータも一定の条件設定された研究で導き出されているので鵜呑みにするわけにはいかないですが、ただ、回復期やそれ以降は活動性が上がるため、非麻痺側の活動量は増加することは間違いなく、そうすれば発症直後より強い半球間抑制作用が損傷脳に起きてしまうのはある程度理解できることではあります。
しかし、麻痺した身体を使って活動を実現するという運動学習のパターンというか、適応の仕方のひな形は初期に起きてしまうのだと思います。最初にいい方の手を使って、頑張ってベッドの柵を持って起き上がったら、いい方の手を頑張らせた結果座れたと言うことが報酬系を刺激するはずですから、困ったことが起きたらいい方の手足を過活動させることで適応していくというパターンが構築される可能性は否定できないですよね。
従って、急性期から将来起こりうる半球間抑制作用を引き起こしにくい運動、動作を学習していくことの重要性があると思うのです。程度の問題はあるでしょうけれど。
しかし、それは日常生活動作の獲得を少し遅らせることになります。
現在の保険医療の中でのリハビリテーションのあり方についての課題の一つがここにあります。
さて、少しずつ調べてみることにします。
2020/7/31
2022/07/21
半球間抑制作用自体は正常な働きなのです。そういったことを踏まえて、少し考えてみました。
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