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執筆者の写真Nagashima Kazuhiro

半球間抑制について

以前も二度ばかり記事にしたことがあります。


当時は、過剰な半球間抑制作用が起こった場合について想定して書いていたのです。

先日の南草津病院リハビリテーション研修会に参加させていただいた時のディスカッションから、以前書いた記事の表現がおかしいのではと考える様になりました。

半球間抑制が過剰になるということはないのです。多分。


まず、半球間抑制作用がなぜあるのかということを考えてみます。

これは必要だから存在している機能なのですね。理化学研究所の「左右の脳が抑制し合う神経回路メカニズムを解明」というプレスリリースを見てみると、動物がスムーズに動くことや触覚の情報処理など「普通」に生きるために不可欠な神経活動といわれている様です。


どういうことか簡単に説明してみようと思います。



例えば、針に糸を通すところを考えてみます。左手(非利き手:右脳)で針を持って、右手(利き手:左脳)で糸を入れるところを想像してみます。

最初、左手の針の穴の位置を左右になる様にして右手で糸を通しやすい位置にします。この時は右脳の感覚情報処理と視覚処理から運動出力調整プログラムを作ることになります。

いざ針の穴がいい位置になったとして、次に針の穴を見ながら右手で糸を穴に向けて差し込んでいくのですが、この時は左脳の感覚情報処理から運動出力調整の働きが主になります。情報処理に関わる脳のリソースはある程度限られているので、この時は右の指に集中すべく左脳が活発に働くことになり、同時に左脳の活動性が右脳の活動を少し抑えて感覚情報処理や視覚情報処理のリソースを有効に活用していくといったイメージで説明ができるのではないかと思います。




こういうふうに考えるとで、半球間抑制作用は動作や行為をスムーズにするためのメカニズムであると考えることができるのではないかと思います。


半球間抑制作用の異常としては脳梁切断などでその機能が失われることはありますが、一般的に脳梗塞などで非損傷脳から損傷脳側へのこの機能自体が異常になることは考えにくいのです。

この半球間抑制作用自体は正常な機能です。

仮にこれを抑えたら、麻痺が良くなるという考え方をするのであれば、脳梁を切れば麻痺が回復しやすいということになるのですが、これでは、先に紹介した理化学研究所の言うところのスムーズに動くことや触覚の情報処理が上手くいかず、普通に生きることができなくなるわけです。


脳損傷において、非損傷側の過活動が起きてしまう根本的な原因は損傷によって損傷脳に感覚情報が脳に届いていないとか、損傷脳の感覚情報処理が上手くいっていないとか情報処理された感覚情報が運動につながっていないとか、さまざまな損傷による情報処理システムの破綻に基づいていることになります。

これらの事柄に対して、正常な機能を抑えて回復に向かわせようと言う発想は本末転倒なのかも知れません。


一方、半球間抑制作用が脳の左右の情報処理システムに関わっているので、姿勢や行動の出力に関わっていることも事実です。したがって、それらは考慮すべきではあろうと思うのですが、あくまで正常な機能として活動させるように損傷脳の情報処理をうまくさせていくといった視点が重要なのだと思います。


簡単に言えば、半球間抑制作用が過剰に損傷脳を抑制している様に見える背景には、損傷脳の破綻した情報処理システムの問題が存在しているので、リハビリテーションにおける治療では、そこにフォーカスを当てるべきであろうということなのです。


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