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執筆者の写真Nagashima Kazuhiro

広範囲調節系

更新日:2021年9月18日

以前から疑問だったのですが、脳幹の縫線核などにあるセロトニン神経から前脳基底部への投射が起こると、マイネルト基底核からのAch投射が脳の皮質広範に投射されて、神経の制御をしています。

Achは神経筋接合部だと筋収縮を起こす伝達物質ですが、脳幹ではどちらかというと情報伝達を抑制する働きを持ちます。

マイネルト基底核から皮質へのAch広範囲投射は、どんな意味があるのだろうと思ったりしていたのです。

認知症のお薬でアリセプトなどのAch分解阻害薬は、Achの分解を阻害して皮質全般のAch濃度を保つことで認知機能を維持/改善させようとするお薬です。

ですので、Achの広範囲投射による広範囲調節は認知機能にとても重要だと言うことが出来ますよね。

Achはどうやら、皮質の興奮性細胞を抑制するようです。興奮性細胞はいったん興奮した後、Achの働きで速やかに抑制され、それによって新しい刺激に対して次の興奮を起こすことが出来ると言うことらしいです。


そういったシステムで変化する環境情報に上手く適応しているのだと言うことになります。


脳梗塞や脳出血では通過症候群と呼ばれる急性期に特有の認知症状が存在しています。脳の状況が急性期を越え安定したら改善してくる認知症状のことです。

これは、脳の損傷による症状の上に被さってくるようにある症状群です。

これにこの広範囲調節系が関わっているのでは無いかとずいぶん前から思っていました。


すると、脳損傷によって広範囲調節系がどのような影響を受けるのかを知る必要があることになります。

そのためには広範囲調節系がどのような構造でAchを運搬しているのかと言うことを知らねばなりません。

Achでは無いですが、モノアミン作動系神経の構造は、通常のニューロンとは違って、シナプス結合は存在しないそうです。構造的な特徴として軸索が数珠状(バリコシティ)になっていて、そこから比較的広範囲に向けて、特定の相手を定めずに伝達物質を放出し、放出された物質は細胞外スペースを拡散によって伝わる(拡散性伝達)とのことです。

Achの広範囲調節系も同じように拡散性伝達をしているのでは無いかと思います。

そうであれば細胞外スペースの状況が脳損傷によってどうなってしまうかが広範囲調節系の機能を左右するといっても良いのかもしれませんね。


脳損傷が起きた場合、機序はともかく細胞外スペースは小さくなるそうです。また、細胞外スペースに存在する間質液の液交換も損傷された血管周囲アストロサイトの足突起にあるアクアポリン4という間質液循環装置は、損傷後にノルアドレナリンが放出されることで数が減少するそうですし、また、損傷があった血管周囲のアストロサイト足突起は血管壁から剥がれるそうです。

細胞外スペースは小さくなるしアストロサイトは液循環システムとして働かなくなるし。

再びそれがどのようになるのかまでは解っていませんが、臨床的には一定期間で再び構造がある程度回復してくるのでは無いかと思うのではありますが。


いずれにしても、広範囲調節系が脳損傷の影響で機能低下を起こし、そのことが脳損傷後認知機能に影響していると考える事は出来そうです。


リハビリテーションでこのことがどのような影響をするのかをちょっとだけ考えてみます。

まず、広範囲調節系の働きを検査で検出が可能か否かという問題はあると思います。これについては、少なくとも現存する認知や注意機能を含めた高次脳機能検査では、特に急性期においては無理では無いかと思っています。

Ach広範囲調節系は細胞間スペースに存在しているAch濃度の状況に応じて変化すると考えられますので、濃度を一定に保っていることが出来るという前提が無ければ検査した結果が広範囲調節系の働きを示すとは言い切れなくなります。ところがそれを一定に保つメカニズムの一つであるアストロサイトの働きが脳損傷によって変化しているので、例えばAchが濃い部分があったり薄い部分があったり。検査中にAchが使用され減少した状態となってしまったり、色々なことが推測されます。広範囲調節系の働きが悪いとは言えるかもしれないけど、どのように悪いかまでは解りませんよね。さらに検査結果からは皮質の損傷(回路の問題)によるものか広範囲調節系の影響かさえ判断できません。何が起こっていてもおかしくないので、検査結果の悪さは脳が上手く機能していないということを示してはいますが、その程度や脳のどのような問題で上手く機能していないのか、そしてそれを急性期において経時的に検査したとしても本質的な改善なのかたまたま良い点を取ったのかなど重要と思われる情報はほとんどわからないと言うことになります。

次にリハビリテーションとして行うべき事として何があるのかという問題があります。

ノルアドレナリンが放出されること自体がアクアポリン4を減少させることに直結するようですので、ノルアドレナリンがあまり放出されないように注意する必要はあるのかもしれません。ノルアドレナリンは激しい心理的や身体的ストレスによって放出される物質ですので、それを避ける必要はあるのだと思います。

検査って運動機能のそれもそうですが、自分の駄目なところを確認させる作業になる場合がありますよね。それは多くの場合結構なストレスだと思うのです。

検査は本当に必要な物を最低限の頻度で。臨床的にメリットの無い検査は極力避けることも大切かもしれないですね。

発症直後は身体が動きにくくなったという恐怖、再発への不安、転倒などの不安があることと思います。頭の回転も悪くなったと感じて不安を持つ人もおられるでしょう。それらの状態に寄り添いつつ、運動機能も過度な負荷にならないように配慮が必要であることは言うまでも無いことだと思います。

特に急性期において、「歩く(立つ)練習しないと良くならないよ❗』 等と言って何も考えずひたすら立ち座りをするとかひたすら平行棒で歩かせるようなことがあるとすれば論外ですね。もちろん、そんなことは無いと思っていますけれど。


いったん急性期を経過し、脳の状況が落ち着いた後も多分同様です。ストレスが脳の液交換システムに影響を与えるという構造になっている以上、配慮は必要だろうと思います。


すべてのことが解るわけでは無いですが、それでも人の損傷のメカニズムを知ることは、回復のメカニズムを知ることになります。その回復のメカニズムを阻害しないようにアプローチを作り上げていくことが大切なのだと思います。


以下の論文を参考にさせて頂きました。

「脳のアナログ伝達機構を支える脳内ロジスティクス」 毛内拡


図は、リンク先より、マウスと人のアストロサイトの比較です。


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