お茶の水女子大で脳の研究をされておられる毛内拡先生と少しお話をする機会があったのです。
人の運動と学習などのことについて会話が広がった際に、アストロサイトがシナプスの可塑性を誘導する訳ですが、アストロサイトが活性化するのはどのようなときかというとまだよく解っていないようなのですが、どうやら情動が喚起されたときか、脳がピンチになった際に活性化されて脳の可塑性が促されるようだといったお話があったように思います。会話の最中のことですので、うろ覚えですけれど・・・(^_^;)
臨床的にも、面白いと云ったような情動がおきた際にはその運動が繰り返されたりするので学習が進みやすい印象がありますし、逆にバランスを崩したり転倒に至った様なシュチュエーションがあると、そういった姿勢や動きは記憶されていてそういった姿勢や動きを避けるようになるので学習がおきていると言って良いと思うのですね。
ピンチはチャンスと云ったような側面もあったりして、ちょっと苦手なことにチャレンジして成功すると報酬情報が大きくなり楽しさ倍増といった場面に出くわすこともありますよね。
これらの働きにアストロサイトが働いているとすると、そこに関わっているのは、多分広範囲投射系と云うことになりますでしょうか。
ということで、ちょっとずつ情報を集めていたらちょっと面白い話が書いてありました。
その文章を紹介する前に・・・
運動の学習とかに覚醒の状態は大きく関わっているかと思います。
私は、覚醒は網様体覚醒系が視床にAchやモノアミン系の伝達物質を送った際に、視床の発火がバースト状から短発射に切り替わって脳のモードが睡眠から覚醒に切り替えられるといった程度の認識しか持っていなかったのです。
この情報でも、結局脳の覚醒時の状態というのは、脳幹におけるAchと5-HTの濃度差で覚醒モードに入るわけで、おそらくその濃度の比率は網様体脊髄路の出力が増える状況を作り上げる状況〜5-HTが優位になっている状態ですね〜で、そういった濃度差を共有して覚醒をあげつつ身体運動性をあげるのであろうと推測することが出来ると思うのです。
それは身体活動は覚醒をあげ、逆に覚醒が上がると身体活動性が上がると云った関係性が成立することになりますので、それはそれで意味がある情報だろうと思っていたのですね。
で、覚醒の話題です。
毛内先生が、日本物理学会誌に投稿されておられた文章なのです。
「脳のシナプスを介さない相互作用によるアナログな調節機構」より引用させていただきます。
「最近,生きている状態のマウスで,細胞外の様々なイオン濃度を測定したところ,寝ている状態と覚醒している状態で,微妙にイオン組成のバランスが異なることが報告されている.さらに,興味深いことに,睡眠中のイオン組成を模した人工脳脊髄液を覚醒中のマウスの脳に添加したところ睡眠し,逆に睡眠中のマウスに,覚醒中の組成の液を添加したところ,覚醒に転じたという.ニューロンの電気的活動が意識や知覚の根源であると考えられているが,案外,細胞外空間を満たす細胞間質液のイオン組成が,ニューロンの電気的活動を規定しているのかもしれない.」
〜引用ここまでです〜
如何でしょうか。
そうするとですね。
脳の可塑性による運動学習というのには、脳の神経活動とともに、細胞外空間環境が重要であると言った気がしてきますね。
まぁ、睡眠不足でグリンファティックシステムがきちんと働けなかった際にはボーッとして覚醒の程度も低く、学習に向いている脳の状態では無いと言うことは実感出来ることではありますし、納得しやすいお話でもありますね。
他にも、日本の研究.comで流れていたプレスリリースですが、
では、
「脳における虚血・再灌流障害の初期には神経細胞で、その末期にはアストロサイトで、カルパイン-5 が組織障害を促進している可能性が示唆されました(図3)。」といった記載を見ることができます。
アストロサイトの関与がある様ですね。
まぁ、脳損傷で破壊された神経細胞から、その神経細胞内にあるイオンが細胞外に放出されることで損傷を受けていない周辺の神経細胞の興奮性が落ちにくくなり、細胞死に至る可能性はあるわけで、そういった場面でもグリンファティックシステムによる間質液交換がペナンブラ領域の神経細胞を守ることになるで有ろう事から、グリンファティックシステムの重要な構成物であるアストロサイトのAQ4の働きを守るためアドレナリン受容体阻害薬を使うような場面も、実際にはある様なので、脳の神経細胞にとってアストロサイトが非常に重要な働きをしていると云うことは間違いが無いのだろうと思うのです。
ずいぶん前から言われていることではありますが、脳の研究は神経のつながりといった側面が強かったのではありますけれど、これからはそういった研究とともに、神経細胞外環境やグリアの研究が必要になってくるのだと思います。
脳の情報処理を担っているのは、神経細胞だけでは無いと言うことですね。
図は、カンデルからです。
ちょっと確認したら、カンデルにも、よくわからないけどアストロサイトが神経伝達関与していると云ったことが書いてあったりしました。
さすがカンデル・・・
後は、どのような動きや行為がアストロサイトの働きを効率よくしていくのかと云うことになりますか。
休息のあり方や課題のあり方。
その他色々、考える事が沢山ありそうですね。
回路網だけを捉えてリハビリテーションを考えて行く時代はもう過ぎ去っていくのでは無いかと思うのです。
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