近年、Poststroke Fatigue(PSF:脳卒中後の疲労)という言葉が出てきているようです。
PSFは身体構造物の疲労、例えば筋疲労などのみを指すものではありません。
私は急性期/回復期/慢性期と分断される前のリハビリ医療体系、つまり脳卒中を発症してから数年に渡るフォローの経験があります。また、急性期に勤めた後も病院全体が脳卒中の外来抑制に向かう中、「脳卒中後の長期的な変化を知ることのできる外来フォローはセラピストの成長のために必用で、その経験が急性期においてどのように治療していくべきかの指針になるはずだ。」という理屈をわがままで押し通し、理学療法部門が脳卒中の外来を打ち切っても作業療法部門は脳卒中の外来部門を維持させていただき、長期的なスパンで何が起きているのかを経験してきました。
そんななか中枢性疲労がどのように出現するのかにも関心を持って診てきました。
急性期においてそれはとても顕著に観察することができます。例えば、アプローチを開始して刺激していくと手指の動きが引き出せるのですが、すぐにそれが出来なくなるとか経験がおありのセラピストは多いのではないでしょうか。また、指の細かな動きを引き出していくとぼーっとしてきたり眠くなったり、注意が適切に機能しなくなるといった患者さんもおられました。そう言った傾向はやはり発症後長期間経過した方にも存在していることにも気付きます。
それらは筋疲労などの身体的疲労では説明できないものという印象があります。
海外においては多くのPSFの論文が出ているようです。
2019年「STROKE」という雑誌にマウリツィオというかたがこう書かれています。
「脳卒中後の倦怠感は、一般的に脳卒中然の倦怠感とは質的に異なります。」
この中で、「一部の著者は、脳幹の上行網様体活性化システムへの損傷が、覚醒の軽度の障害、注意の変化、およびその後の倦怠感の発症につながる可能性があると仮定しています。他の著者は、脳幹のセロトニン作動性経路の破壊が脳卒中後の倦怠感の潜在的なメカニズムである」とある様ですが、セロトニン投射系は前脳基底部に投射されると脳の広範囲にわたるAch投射系を賦活して注意などの機能に関与しますし、ほかのモノアミン系物質とともに視床に投射されれば覚醒に関わりますので、同じ事のような気がします。
日本においては、九州労災の豊永 敏宏先生が、「治療と就労における阻害要因~脳卒中後の疲労感の特性~」の中で炎症との関連している可能性を指摘されています。
他にあまり見ないので日本ではまだあまり議論されていないのかもしれませんね。
他にも推測しうる可能性としては、
・脳の血管状態で必用な血流が維持できない場合など、エネルギーや酸素を使用する神経興奮を維持できなくなる。
・損傷部位を補うように脳の特定の部位が常に過剰に働く(非損傷側脳の過活動)ため、その働く部分への負担が大きくなる。
・神経細胞外成分の液交換システム不良。
なども中枢性の疲労に関わっていると個人的に推測しています。
そして、これらの中枢性疲労は身体の動きの不均衡さを呼び身体疲労につながることになります。
こうしてみると脳卒中急性期の方はまだ脳の血流や神経細胞外環境が安定していないことを考慮すればある程度の休息は必要なのではないかと考えることが出来るのではないでしょうか?
先日大腸憩室炎を起こしたのですが、どのサイトを見ても絶食などによる腸の休息を勧めています。脳卒中後、脳の中は当然細胞破壊が起きて炎症も起きることでしょう。結果浮腫とか二次的な物理的変化も起きているわけです。急性期には特に休息が必要だと思うのです。
個人的には期間が経過した方も休息に気を配る必要があると考えています。
今後、PSFの原因明確化-PSFの運動学習への影響-PSFを起こさない為のリハビリのあり方と研究は進んでいくのではないかと期待します。
画像は紹介した豊永先生の文献より引用させていただきました。
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