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執筆者の写真Nagashima Kazuhiro

透析患者の足病変と脳機能リハビリテーション

更新日:11月28日



現在、「いきいきクリニック」という病院で、透析中の患者さん達のリハビリテーションのお手伝いをさせて頂いています。

院長から、日本腎臓リハビリテーション学会誌 (2024 VOL.3 No1)をお借りできたので読んでみているところ、ちょっと面白いのですね。

(*^_^*)


特に興味を引いたのは、「特集 透析患者の足病変と腎臓リハビリテーション」の中の、”フットケアの実践"、”運動療法の実際"と云うふたつの論文です。


今回は、”フットケアの実践”から。(*^_^*)

長くなりそうなので、"運動療法の実際"については、また後日取り上げようと思います。


で、フットケアの実践。

この論文では、足部の角層水分量に着目して様々な事を探られているようです。

これによれば、標準的な角層水分量は、足背:19.9±8.8a.u、足底7.5±8.1a.u、下腿:24.0±11.7a.uとのことです。


書いていて思ったけれど、数値は取りあえずどうでも良いですね。細かな数値などを知りたい方は雑誌の方を手に入れて読んで頂ければと思います。


取りあえず、これを基準に高齢者の角層水分量を計測してみると基準値より低くなっていることが解るようです。

その上で、高齢者透析患者の足部の角層水分量の実態について、角層水分量が低く、保湿状態が低下し皮膚乾燥の状態であり、皮膚の水分保持機能が低下していることを指摘しておられます。

角層水分量が下がると、皮膚が微細な損傷を起こしやすくなっていて角質細胞膜の破壊により足白癬を起こしやすくなったりすることが解っているそうですね。そして、足の皮膚白癬が長期化すると爪白癬に移行しやすく、爪の肥厚から靴や靴下の装着が困難になったり、歩行時のバランスが低下するのだそうです。

まぁ、何となく理解できる気がします。


この角層水分量と応用的日常生活動作の相関を調べられています。

ここが結構面白いのです。

応用的日常生活動作評価にはFAI(Frenchay Activities Index)を利用されたようです。私、不勉強で、FAIを知らなかったので、ちょっと評価表を探してみてみました。


面白い評価表ですね。

評価自体は、社会モデルの障害を見ている物のようです。

FIMやBIなどのように、医学モデルの障害と社会モデルの障害が混在しているものより割り切って見えるところに好感が持てますね。(*^_^*)

これであれば、医学モデルの障害程度の改善が、どの様に社会モデルの障害改善に繋がっていくのかと言った分析には良さそうな気がします。

あくまで、気がすると云うだけですけれど。


さて、このFAIと角層水分量の相関ですが、やはり相関関係上にあるという主張をされておられます。

それによれば、足部の角層水分量が高くなるほど、FAIの実行頻度が高くなることが明らかになったようです。角層水分量が低いほど実行頻度が低いというわけですね。

この実行頻度の低さというのは、簡単に言って「出来ない」、「出来るけど面倒くさい」、「出来るけど、実行した後からだが辛くなる」などといった理由が考えられるのだろうと思います。


この研究にも書かれたように、これは相関関係で因果関係ではありません。

なにかしらの原因に近い事柄というのはなにかありそうですよね。なぜ、出来ないという判断が起きるのか、なぜ面倒くさくなったのかというところの、なぜかという部分、つまり原因が存在しているはずだと思うのです。


ちょっと皮膚の構造を見てみます。


表皮の下に、自由神経終末・メルケル盤・マイスナー小体・パチニ小体・ルフィーニ小体などなどの感覚受容器と言われるセンサーがあります。これはふわふわと在るわけでは無くて一定の場所、範囲で動きながら機械的な変化があるとそれを感覚情報に転換して、求心性に感覚情報を伝達していくことになります。

これらの感覚受容器はどの様に定位されてどの様に機械的な変化を受け取るのかと云うことを考えると、原繊維の構造が重要であろうと思われるのですね。



原繊維は、コラーゲンを主体とした組織で、蜘蛛の巣が立体的に張ったような構造になっています。フラクタル構造、あるいはカオス構造と言われたりします。その組織構造が密になると膜と呼ばれたり靱帯と呼ばれたりします。粗な部分では、コラーゲン同士の繋がりの位置が滑るように移動したり分岐したり合体したり接続を切ったりと、結構好き勝手な動きを持っています。この粗な部分の立体網の目状に見えるところに空間があるわけですが、これを微小空間と呼びます。この微小空間に各種感覚受容器が存在していて、ある一定の範囲で動きを保ちつつ定位されているのだと考えられます。

そして、この原繊維・膜の動きによってこの感覚受容器は機械的な変化を起こし感覚情報といわれる電位的な情報を作って、その電位情報が神経を上行することになる訳です。

(ちょっと言葉が正確かどうか心許ないですけれど・・・まぁ、こんな感じだと思います)


角層水分量が低下しているという事は、おそらくですが、皮下組織のコラーゲン組織も表層に近いところは水分量を失い、原繊維の自由奔放とも言える動きが制限されることになるのだろうと推測するのですね。

すると、感覚受容器は適正な機械的変化を起こすことが困難になるであろうという事は推測できると思います。


さらに、角層水分量の低下というのは、下肢動脈疾患あるいは慢性下肢虚血があることで引き起こされやすいのだろうと思いますが、こうした虚血などが起きた場合、中枢部より末梢部、つまり骨に近い部分より皮膚に近い部分〜毛細血管などからの間質液で栄養供給される部位ほど強い虚血が起きるのだろうと考える事が出来ます。

すると、表皮に近い部分の感覚受容器は阻血を起こしやすいと言えます。

阻血ではこういった感覚受容器が変化を起こすと言われています。

正座をしていたら、足が痺れたり感覚が鈍くなったり消失したり痛くなったりする経験は皆さんおありなのでは無いかと思うのですが、あれですね。

(^^)

つまり、感覚受容器自体の働きも通常の状態ではなくなるわけです。

おそらく末梢の神経伝達も阻血による影響を受けているものと思われますが、まぁ、色々書いていくのも面倒なので、ここでは、下肢や、特に足部に怒っている循環障害が感覚の異常を引き起こしている可能性が高いという事が解るぐらいの説明だと云うことで・・・(^_^;)


さて、この様な事柄から、異常あるいは、通常と異なった感覚情報が上行して脳がその情報を処理することになります。

すると、身体図式が変化してしまうことになります。


身体図式の変化は、何も脳卒中などの中枢神経疾患に限って起こるわけではありません。

上の高草木先生の図の中にも、「多種感覚情報が頭頂葉で統合されて身体図式が生成される」と書いてあります。従って、この多種感覚情報が異常もしくは消失しても身体図式は変化する事になりますよね。

まぁ、それは四肢の問題が起きても二足直立で移動を出来るだけ可能にするためのセキュリティと考える事も出来ますけれど、持続した四肢の問題は、立位姿勢制御や運動制御を変化させる事にもなるのです。

それらが全て絡み合ってしまうことで、多種多様な姿勢−運動機能障害を引き起こして歩きづらさなどの機能障害につながっていくと考えて良いと思います。


さて、FAIの実行頻度の減少があるわけですが、これには「出来ない」という状態、「出来るけど面倒くさい」というような状況がありそうだというお話を先に書きました。

「出来ない」に関しては、構造的な変化〜たとえば姿勢制御上の問題で結局脊柱、特に腰部が硬くなってしまってしゃがめないとか比較的多く見ますが、しゃがめないと家のお掃除や庭の作業などは出来なくなる場合もありますよね。こういった構造的に出来ないことも増えちゃうのですが、じゃぁ、出来るけど面倒くさいというのはどういったことなのかという事を考えて行きます。


行動選択には基底核ループが働くとされていますよね。

基底核ループの働きで行動選択が行われているという言い方でも良いのかも知れません。



前頭連合野基底核ループで決定された大雑把な行動情報が運動前皮質に行って運動プログラムになっていくようなイメージですね。


そして、運動前皮質の情報は、ひとつは姿勢制御プログラムとして脳幹に投射されます。もうひとつが、運動野に送られて行動が実行されるわけです。

この時、基底核からも脳幹に投射されているのが面白いところなのですが、それにはここでは触れないで起きます。(^^)


で、この情報だけだと、環境情報が足りないので、前頭連合野はどの様に行動を選択していくのかと云ったことが出来ませんし、運動前野は運動するにしても現在の身体の位置情報がつかめなかったら、どのパーツをどの程度動かせば目的となる行動や運動が成立するのかと行ったプログラムを生成できません。

つまり、行動の選択とか運動プログラムの生成には頭頂葉や、頭頂側頭連合野の情報が必要なのです。ということは、頭頂側頭連合野などからの情報が前頭葉に送られているはずですよね。

たぶんこの情報をやり取りさせているのは上縦束だと思っています。


ね。

頭頂側頭連合野と前頭葉の各領域を結ぶのにちょうど良い繊維束ですよね。

こうして五感を介して得た環境情報は情報処理された上で前頭連合野に運ばれ、固有受容角から入力された情報を元に生成された身体図式情報は運動前野に送られて、結果何をどの様に行うのかと行った情報に変換されていくわけです。

ここで、前頭連合野における行動選択には記憶も大きな要素となります。

どの様にしたら上手くいったとか、どんなことしたら怪我をしたという記憶、それは無意識下のものも意識できるものも混在しているのだろうと思うのですが、そういった記憶情報が基底核ループにバイアスをかけて特定の行動を抑制したり、結果選択された行動を促通したりするのだろうと考えられます。


これらをみんな統合して考えると、身体の痛みや動きにくさといった感覚情報があると、それは頭頂側頭連合野に送られることになります。その情報は、前頭連合野や運動前皮質に送られて、行動選択や運動プログラムにバイアスをかけて場合によっては抑制される行動を生み出す事になります。

また、かつて特定の行動を行って、どこかからだがいたくなった身体不調の経験などの記憶があると、それもそういった行動について前頭連合野と基底核ループの中で抑制されることになります。

そして、大切なのはこれらの情報処理は無意識下に行われているという事です。

受動意識仮説においては、意識されるのは行動選択が起こった後だと言うことなので、何かの行動を行わないという行動選択を基底核が行った後に脳はなぜ行わなかったのかという事を意識化・言語化していくことになります。

この時につく一見合理的な説明が「面倒くさい」なのではないかと考えても良いように思うのですね。

あ、勘違いしないでくださいね。蛇足でしっつこいかも知れませんが、ここで言う「合理的」というのは、何かをしないという行動選択が「合理的」というわけでは在りません。何かをしないという行動選択したことに対する理由付けとして「合理的」だと言うことです。もちろん、他の解釈も可能だろうと思います。

(^_^;)


まとめると、角層水分量とFAIは相関関係にあることはそうなのでしょう。したがって、角層水分量とFAIに相関関係をもたらしている要因が存在しているはずです。私の予測ですが、これは、下肢の循環障害による感覚受容器周辺の軟部組織および感覚受容器そのものの障害が引き起こされることで頭頂側頭連合野における身体図式情報が変化し、その情報が前頭連合野に送られることで生成される姿勢制御情報と運動出力情報が身体を恒常的に使用する為には適切なものでは無くなってしまって、痛みや疲労、その他のネガティブな情報を引き起こすことになり、それが記憶されていくことで応用日常生活動作に分類されるような活動項目の実行頻度が減っているのではないかと言うことになります。

つまり、FAIと因果関係にあるものは、下肢の血流障害とそれによる感覚情報の変化。さらに変化した感覚情報による中枢神経系の情報処理なのではないかと言うことなのです。

あ〜長かった。

(*^_^*)


ここまで読んでいただけた人っているのかなぁ・・・

(^_^;)


ここまで仮説を立てれば、これを検証する手段としてのアプローチもいくつか思い付くものがありますね。

目的は、足部の軟部組織の状態を可能な限り良い状態にしていくこと。そして、その足部を含めた下肢の感覚情報から身体図式を少しでも適切なものに書き換えていくように感覚を入力していくこと。また、それによって改めて行動パターンと運動出力パターンを変更していただける様に運動学習に働きかけることになるかと思います。

すると、まず、フットケアは大切と云うことになりますよね。それをどの様に行うのかと言うことを考えると、当然身体図式の書き換えも視野に入れておく必要があります。

身体図式については、側頭頭頂連合野が関わっているとされています。すると、当然側頭頭頂連合野に送る情報が重要なのですが、私はこれは頭頂間溝野の働きが大切なのではないかと考えています。



図は頭頂間溝野内の接続を図示したものです。

では、その入力を見てみます。






広く、視覚情報と体性感覚情報を受けていますね。そして聴覚情報なども。それらの感覚情報を受け取って身体図式と言われる情報の基となる情報を作り出しているのでは無いかと思うのです。


とすればですね。

まず、自分の身体に触れていくという作業が身体内の感覚情報の統合につながるのでは無いかと思うのです。赤ちゃんが発達の過程で良く自分の手足を触って口に入れたりしていますよね。大人ですから、手はなめることが出来ても足はなめることが出来ませんけれど。

(^_^;)

ともかく、自分の手で自分の足に触れると言うことは下肢の身体図式の再形成上、効率が良い可能性が在ります。

ですので、フットケアをする際、自分で行うことが重要になって来ると思うのです。

自分で足に触って、爪を整えたりクリームを塗ったりマッサージを行ったりして、保湿に努めつつ、軟部組織の粘弾性を改善させ、アライメント(構造の位置関係)を整えて行くのです。


例えばこんな姿勢もありかもしれません。お風呂の中であれば体育座りのような姿勢で足に触れることも出来ますね。

しかし、透析患者さんは様々な理由で身体が硬い〜脊柱から近位関節の可動域制限がある方〜が多く見られるので、この写真のような姿勢を取ること自体が難しい場合も多いですよね。そういった事を改善させていくことも大切です。


そして、その上で、個々によって異なる運動パターンに介入して、身体図式と運動出力パターンの調整を行うことが大切になってくるのだろうと思います。

それは、単に歩いていただくと言うことでは無くて、その身体の中で、最もエネルギー効率が良く疲れにくくて長く身体を使い続けることができ、痛みなどを起こしにくい運動パターンを学習し直すことが大切だと考えられます。歩くこともですがそれだけでは無く様々な姿勢での運動パターンにそういった効率性を求めていき、姿勢と運動を際学習していく個別のプログラムが必用なのだと言えると思います。


透析患者さんは、日中に4時間仰臥位でほとんど動かずに過ごすという特殊な身体環境におかれていますので、透析中に出来ることとしては、臥位で出来るだけ痛みを出さない、圧迫部位が一定にならないなどの配慮が必用だと思います。寝ているときに積極的に運動をすると言うことも大切なのかも知れませんが、それと同等、それ以上に動きやすい身体をつくり、それを維持する臥位での姿勢変換などの動きを獲得していただくことも大切なのではないかなぁと考えたりしているところです。

そして、透析中以外の所では、やはり運動療法といったアプローチは必用ですよね。


と云う事が、この"フットケアの実践"という論文を読んで考えたことなのです。

最初の方に書きましたが、"運動療法の実際"という論文については、また後日。


思ったより長くなっちゃった。

最後まで読んでいただけた方、ご苦労様でした。

私の受けた印象や私の考えたことなので、異論や反論はあることとは思います。

まぁ、それでも、何かを考えるきっかけにしていただければ嬉しいです。


m(__)m


あ、そうそう。

脳卒中片麻痺の方の麻痺側足部も動きの乏しさや自律神経系の問題から足部の状態は余り良くないことが多いですよね。

そういった意味では、セラピストが積極的に足部に触れてアプローチをしていくことや、患者さん自身に足部に触れてもらって管理していただくのも大切だろうと思います。




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